授業の相互観察の取組について

◆授業の相互観察は,高校現場においては,なかなか機能しにくい実情があると思っています。高校の教員にとっての拠り所の大きな要素は「教科の専門性」であり,自身の採用(教員採用試験)の段階から教科のみならず科目の専門性を強く意識する教科もあります。概ね当該教科・科目が好きで得意であった教員にとって他教科を含めて同僚から,その専門性に関わる「評価」を受けることに,自身のプライドに関わることとして抵抗感を持って受けとめる教員も多くいるように思います。

◆村上が府中高校に在職していた6年間において,初めの頃の相互授業観察は,その実施期間や手順等は設定されていたものの,必ずしも全員が,授業実施者の50分枠全体を観察し,観察評価シートに気付きや数値評価を記入して実施者に示すことを遵守していたわけでもなかったと思いますし,事後協議も組織的ではなかったように思います。その後に,観察評価シートを校内ランに掲載するようにしたり,グループを設定して事後協議をしたりするようになっても,数値評価が未記入であったり,いつもどの観点も「5」(府中高校での標準が「3」)であったりする例が見られました。

◆在職のなかば以降は,教員全員が,複数の授業観察を行い,数値評価を記入した観察評価シートを全員分校内ランに掲載したり,全員事後協議に観察評価シートを持ち寄って参加することが実態化しました。

 

◆そうした変容の背景には,次のことがあると思っています。

(1)「学びの変革」の推進の中で,積極的であれ,消極的であれ,授業についての変化対応する意義が明確になってきたことがあります。 ⇒ 授業改善の新しい視点・考え方を受けて,積極的に授業改善にチャレンジした教員も多くいましたし,自分の授業を工夫し改善していかなければ,取り残される危機感を持った教員も多くいたと思います。

(2)教科でまとまって授業改善を推進する教科の存在や,授業観察を積極的に行い情報発信をする事例の増加も原動力になったと思います。

(3)村上が赴任当初から6年間,前期・後期の授業観察期間中に教員全員の授業を観察し,観察シートに記録・評価を記して全員分を校内ランに掲載するとともに,全員の事後協議に関わるようになったことも理由だと思っています。 ⇒ 全体の方向性・取組内容が明確になり,全員(或いは,多くの教員)がその方向で実際に動いているという,ある一定の〔平等性〕が機能するようになったことが重要だと思っています。

 

◆授業の相互観察が安定して機能するようになったのには,グループ化が大きな役割を果たしたと思っています。基本的に教科が異なる4人でグループとし,前期(一学期)後期(二学期)の設定期間中に他の3人の授業をお互いに観ることができるように調整しながら実施し,4人全員が終わってから4人分の事後協議を校長・教頭を含めて行います。その時に用いた観察評価シートは,そのまま全員分を校内ランに掲載するので,校長分を含めると1回で約160人分の観察評価シートが載ります。前期と後期とでメンバーを組み替えると,他教科の授業を年に6回(+自教科の授業も観る設定もしています)以上は授業観察の機会があることになります。

 

◆後期には,授業観察に併せて授業のビデオ撮りを全員行って,録画そのものを校内ランに載せていますので,授業観察評価シートと併用しながら,いつでもビデオによる授業観察を行える環境になっています。特に初任者等には,恵まれた環境になっていると思います。また,ビデオ撮りが定着してくると,日程が合わずに授業観察できなかったメンバーの授業もビデオ視聴は可能なので,臨場感は弱いですが,授業観察を行うことはできます。

◆自分の授業をビデオで見ることは,あるタイプの教員にとっては「試金石」的な意義を有することがあります。自分の授業の「評価」を受けることの抵抗感が強い教員がいる以上に,自分の授業を録画すること,そして見ることに抵抗感をもつ教員も多くいます。それでも,抵抗感と得られる成果とを(村上の位置から)比較すると,得られる成果の方がはるかに大きなものだと感じています。自分の授業の振り返りを行うには,まず,録画したのを自分で見ることが大きな意義を持つ教員も多くいると思っています。