〔5〕安全管理について

◆学校の安全管理についても,法令で定められていること,文科省の『学校の危機管理マニュアル作成の手引き』,県教委の『広島県教育資料』〔危機管理体制の徹底〕などに整理されていることをもとに,日常的にどの水準で対応準備ができているか,日常的に機能しているか,ということが大事になります。村上が関わっていた府中高校においても,安全計画の策定,マニュアルの整備,避難訓練の実施,AED研修などをしてきましたが,これらのことは全校で行われていることだと思っていますので,ここでは,特定の事案だけを取り上げてみることにします。

《学校の安全管理は,誰の業務か》

◆以前の学校風土の中には,学校の施設管理,安全管理は主に管理職の仕事であるという考え方がありました(今でも,校種によっては,学校の鍵の開け閉めの「担当者(責任者)」は教頭であるとする管理職に出会うことがありますが・・)が,村上の考えでは,全員の教員も施設管理の責任者の一人であり,安全管理の責任者の一人であるとする考え方の方が合理的で適切だと思っています。

◆立論的には,「広島県立高等学校等管理規則」に定められているように,校長に課されている「学校の施設,設備等の保全管理に努め」ること,「学校の防災及び警備に関し,職員の職務分担を定めなければならない」ことをもとに,教諭への権限委譲(職務分担)として整理すると,定められた分担に基づいて教諭も責任者の一人になると位置付けられます。また,教諭の本務である「生徒の教育をつかさどる」ことからしても自らが実施する教育が安全・安心のもとに成り立つ前提を準備することも(その準備の全てではないにしても)教諭の職責に属することだと考えられます。
◆教員に安全管理の役割を分担する方法としては,年度当初に,施設ごとの防火管理者の特定に併せて必要な保全管理の分担の整理することや鍵開け鍵閉めなどのルールと分担を定めておくことが考えられます。また,府中高校では,学期に1回程度,全員から施設・設備の安全・破損等についてアンケート調査を実施していました。

◆また,府中高校では,教員だけでなく生徒の委員会活動の役割の一つとして位置付けて,保健委員会(安全点検班)の安全点検活動として,生徒も活動方針を立てることや実際の実施,結果の取りまとめなどを行っていました。委員会活動としての意義は高いと思っていますが,学校によっては,指導する教員の在り方や生徒自身の自己安全管理力に違いがあることから,機能化が難しいところもあるかと思いますが,粘り強く取り組んでみる意義はあると思っています。

《救急車は,誰が呼ぶべきか》

◆教員が安全管理の責任者の一人である観点から,村上が関わってきた学校では,病気・負傷等により,救急車要請を行う場合の判断・対応は,その場にいる教員が行えばよいこととしていました。幾つかの公的な資料やマニュアルの中には,管理職の了解・指示のもとに救急車要請を行うことをルールとしているのもありますが,村上は,そもそも救急車要請が想定されるような場面で,何を優先テーマとすべきか,と考えたら,責任者の一人である教員が対応することも認められていて当然だと思っています。もちろん,場面・状況にもよることだと思いますし,校長が最終責任を負うことは当然のことだと思っています。

《安全管理の範囲》

◆学校における安全管理を考える上で考慮しておくべきことの一つが,どこまでが学校の敷地であって安全管理の責務が生じているかの事実に基づいた把握が大事になります。特に歴史の古い県立高校は,学校の成り立ち時とその後の周辺環境の変化が大きく,統合や学科改編の歴史も重なったりして,きちんとした把握が容易ではない学校も多くあります。
◆村上が関わった学校には,学校の中を地域の方が使う道があり門扉に施錠ができなかったり,周辺の雑木林が敷地に含まれていたり,農業科の関係で奥深いところに在る山林自体を保有していたり,所有権と管理権が錯綜する道や水路があったりするなど,少なくとも管理職(特に校長)は学校の敷地の範囲,特に境界の性格については,事実を把握しておくことが必要だと思っています。

《熱中症予防について》

◆夏前から夏にかけての体育館やグランドで熱中症への予防的な対策も気を付けるべき対象の一つだと思っています。特に体が暑さに慣れる前の時期や考査が終わったタイミングでの行事や授業などにおいては,直接関わる教員・管理職の事前情報整理が大事になります。
◆実際対応として重要になるのが,その行事や授業における,まさにその場所でのWBGT(暑さ指数)判断の根拠を事前に持っておくことが必要です。WBGTに対する基礎知識や予報情報だけでなく,実際の計測機器を用いたこの時期の当該場所の一定の時間ごとのデータを学校として持っておくことと,対応判断基準や生徒の体調管理状況なども関係教員が理解できておくことが必要になります。
◆府中高校での村上の受けとめでは,予報情報と学校内の実際の測定データとに相違があるケースもそれなりにあった印象と,実際数値が一定のところになったら取るべき対応策を事前確定できているとスムースな対応になることと,経験則に頼る教員との事前調整が大事なことだと思ったことを覚えています。

《災害・警報への対応》

◆学校の安全管理の中でも災害・警報への対応については,この数年で大きな環境変化が起きたと思っています。平成26年の広島市豪雨災害,平成30年の西日本豪雨災害が持つ意味には大きいものがあると受けとめています。警報が発令された時の対応方針は学校ごとに定められ,それぞれ学校のホームページに掲載されていて,概ね同じようなものになっていると見受けられますが,扱う警報の基準(どの警報が対象か,また,一つか複数か等)にはそれなりの違いがあります。どの学校においても,学校の立地状況,生徒の交通手段などを慎重に見極めて策定されているものと受けとめています。
◆校長の立場で捉えると,高校は通学エリアも広く(JR利用者も多い),警報が市町単位で発令されていることから広い市町だと該当エリアを特定しにくく,実際の警報範囲と通学エリアにズレが生じることがしばしばあること,小学生・中学生に比べて危機管理対応力は相応にあると思えること等から,授業時数確保の優先度を高めて基準を策定している学校も多く見受けられます。

◆村上が関わっていた頃の府中高校では,朝6時の段階で,関係警報が府中市・福山市に一つでも出ている場合は,自宅待機としていました。授業時間数確保は大事な要素ですが,夏季・冬季休業日への振り替え,授業時数の計画的な変更の中で授業時数バランスを図ることで実質的には対応可能だとの考え方からの判断です。実際に警報が出ている中で登校していた生徒に万一のことが起きた時のことの方が,問題性が大きいとの考え方です。

◆次の資料は,前段が平成30年の西日本豪雨災害の時の府中高校としての対応についてのメモに基づいて,村上が整理したものです。後段が対応当日の7月9日の朝に職員に提示した資料です。こうした時の対応については「正解」の範囲が捉えにくく,異なる対応判断もあり得たことかとも思います。状況,場面対応の参考にしていただければ幸いです。